「ご先祖様」を授業する

2002.04.29/産経新聞東京朝刊掲載

齋藤武夫(自由主義史観研究会副代表・さいたま市立島小教諭)

「新しい学習指導要領になって六年生社会科(歴史)の教育目標が修正された。これまでなかった「国を愛する心情を育てる」という文言が付け加えられたのである。小学校の歴史の授業は、ようやく愛国心の育成をめざして進められることになった。歴史の授業改革を進めてきた私たちにとって、これはまことに大きな励ましである。

「解答乱麻」とはいかないけれど、この欄で私は小学校の歴史授業を紹介していく ことにしよう。私にとって教育は議論ではなく、子供たちを育てる日々の営みである。それを伝えるのが現場の教員の役割ではないか。そう考えたからだ。

今回は「歴史入門」の授業について書く。「ご先祖様の授業」とよぶシンプルな教 材である。学習の狙いは子供たちの歴史を学ぶ心構えをつくることにある。細部は省略しよう。核心の問いはこうだ。

「わが国の歴史の中に、みなさんのご先祖様はいったい何人生きておられたでしょ うか?」もちろんこれは正解を求める問いではない。ふだん先祖のことなど考えたこともない子供たちを、新しい発見に誘うための仕掛けである。

まず系図史料を教えてから、「私の系図」というワークシートを書かせてみる。「私」から始まって両親、祖父母、曾祖父母と倍々に増えていく。しだいに見えてくる膨大な命のつながりに驚きながら、歴史のどの時代にも必ず自分のご先祖様は生き ていたんだということに気づいていく。名前はわからないけれど、ほかならぬ「私の」ご先祖様が生きていた日本を学ぶ。それが歴史の勉強なのだ。

ところがご先祖が倍々に増えていく計算をしてみると困ったことが起こるのである。歴史のある時点で、たった一人のご先祖の数が当時の日本の推定人口を超えてし まうのだ。もちろんそんなことはありえない。本当は少ない先祖からたくさんの子孫 が生まれて今日がある。日本の発展とともに人口は増加してきた。それが歴史の真実である。

この謎を解くかぎは、私(たち)の先祖の多くが実際は重なっていたということだ。この新たな発見は、ここにいる私たち(日本人)はみな遠い親戚(しんせき)な のだといういっそう大きな驚きをもたらすことになる。こんな幸運な国は世界でもまれだ。建国以来、いやもっとずっと以前から「命のバトン」(相田みつを)は受け継がれ、わが国は発展してきた。こうしていまも国があるおかげで私たちは生きられる。それはこれから学んでいく歴史上の人物たちのおかげであり、その同時代を生きて日本という国を支えてくれたみなさんすべてのご先祖様の努力のおかげなのだ。

学習を終えた児童は歴史を他人事の知識としてではなくまさに「わがこと」として学び始める。子供たちの感想のほんの一部を紹介しよう。「もしご先祖さまの一人でも欠けたらこの場に私はいなかった!」「国を守り育ててくださった私たちのご先祖様に感謝したい」「歴史を勉強するのが楽しみになった」「ご先祖様から次の時代を頼むぞといわれたような気がした」。

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