廃藩置県の授業
「武士の自己犠牲で成立した近代的な統一国家」


齋藤武夫(自由主義史観研究会副代表・さいたま市立島小教諭)

岩倉遣欧使節団の伊藤博文がサンフランシスコの歓迎パーティの席上でスピーチをした。後に「日の丸演説」と呼ばれるそのスピーチに次の一節がある。

「数百年来の封建制度は、一個の弾丸も放たれず、一滴の血も流されず、一年の内に撤廃されました。このような大改革を世界の歴史において、いずれの国が戦争をしないでなしとげたでありましょうか。この驚くべき成果は、わが政府と国民の協力によって成就されたものであり、この一事を見ても、わが国の精神的進歩が物質的進歩を凌駕するものであることがおわかりでしょう」(泉三郎『堂々たる日本人 知られざる岩倉使節団』祥伝社)

この「大改革」が「廃藩置県」だと、十年前の私には分からなかった。戊申の役が終わり、明治政府が徳川幕府に取って代われば、もう話は明治であると私のアタマはそうなっていた。しかし、真の日本国改造は幕府が倒れてから始まるのである。それを「藩をやめて県を置きました」ではあんまり情けない。そこで、この大事業の意味を当事者たちの現場に立って考えてみようというのである。

ただし、この授業には前提がある。「西洋列強と対等につきあえる国をつくる」という明治の日本人の目標を、子供たちがわかっていることだ。その目標のために何を為すべきか?子供たちは、明治の先人の苦悩を我が事として受けとめて考えるのである。

中心の学習活動は、廃藩置県に賛成の立場と反対の立場の意見を読ませ、どちらかの立場に立って討論することだ。子供たちは、賛成派二十五人、反対派十二人に分かれた。彼らの主張の要点はこうだ。

〈賛成派〉
「税金が藩に集まってしまって、明治政府にはお金がないというのが決定的にダメだ。目標に向かう政治が出来ないから」
「日本が二百六十もの藩に分かれていては、強い力を出せない。一つの国にまとまるべきだ」

〈反対派〉
「幕府を倒すのに手柄があった武士をクビにするのはひどい」
「ぼくが武士だったら、許せないから必ず反乱を起こす。国内で戦ったら日本は滅びる」
「これから西洋に立ち向かおうというのに、戦いのプロをやめさせてどうするんだ」

ただ、賛成派の子供たちも、この政策の武士に対する非情さには心を痛めている。なので、武士の失業対策や「つらいけど、ここは我慢だ」のような精神論を付け加える意見が多い。中には、徳川と同じような連邦政府構想なども出てきて面白い。私もそれなら英国流の貴族層が残り、武士道の精華が保存できたかもしれないな、などと空想したりする。子供たちのやわらか頭がこの学習に奥行きを与えていく。ああそうか、これは数百年の武士の国を終わらせる大手術なんだと、言い合いながら気づいていくのである。

心配されていた武士の反乱はこのときには起きなかったと知って、日本の武士の自己犠牲の精神にさらに感動が深まる。
「日本は団結する面では、西洋より上だと思った」
「武士というのは、国のためなら何でもできる人たちだった。私は日本の武士を誇りに思う」

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