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授業報告
有事!自衛隊の現状

いざという時に国民を守れない自衛隊のままでよいという
「民意」のおそろしさ!

服部 剛(横浜市公立中学校教諭)
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有事三法案が継続審議になりました。世間では、いろいろとかまびすしい状況ですが、この授業は有事法制定の前提となる我が国の国防体勢の「現状」を知り考察する公民授業案です。
■導入
我が国の防衛にたずさわる重要な組織が自衛隊です。いざというとき、我々の生命や財産、そして自由・人権という価値観をも守ってくれるのが自衛隊ですね。
さて、今日の授業の眼目の一つは、そんな自衛隊は我が国において、どのような位置づけになっているのでしょうか?、ということ。 もうひとつは、有事における「例外規定」はどうなっているのでしょうか?、ということです。
「例外規定」とは何でしょうか。 国家に緊急事態が発生したときに、平時の法律や規則をそのまま守っていたら、軍隊の行動が制約を受けて、国を守るどころか、かえって危険なことになってしまいます。 ですから、世界のあらゆる国は平和時のうちに、緊急事態になったらここまではやってもいいという規定を法律で決めています。これを例外規定といいます。
では、次のプリントをやってみましょう。
■プリント
[有事シュミレーション]
皆さん、大変です。敵の侵略軍が我が国に上陸してきました。次の各問題の答えを1〜2から選びなさい。
●問一 「敵侵略軍、上陸す!」の報を受け、天に代わりて不義を討つ、忠勇無双の我が自衛隊は国民の生命を守るため緊急出動することになりました。部隊は車両に分乗し、我が国の平和を乱す敵軍を撃滅せんとかけつけます。さて、道路を走っていると、前方の信号が「赤」です。自衛隊の部隊はどうしなければなりませんか。選びなさい。
1、戦争で一刻を争うのだから、信号は無視してそのまま進んでも良い。当然でしょう。
2、戦争だろうが何だろうが、パトカーや救急車以外は『道路交通法』を守らなくてはならない。自衛隊の車両も他の一般車と一緒に、信号が「青」になるまで止まって待ちましょう。
●問二 敵の侵略軍が発電所を爆撃したらしく、あたり一帯は停電してしまいました。信号機も消えてしまい、あちこちで事故が起こり、大渋滞です。このままでは部隊も進めません。自衛隊は交通整理をしようとしましたが…。
1、このまま、ボヤボヤしていたら敵の侵入を許してしまうので、すみやかに交通整理をして前進しよう。
2、自衛隊員はお巡りさんではないので、交通整理はできません。渋滞に巻き込まれても、道がすくまで辛抱強く待つしかありませんね。
●問三 敵の侵略軍は海岸近くの住宅地に陣地を築きました。ところがよく見ると敵陣地の裏手にある庭がガラ空きです。チャンス到来!さて、我が自衛隊の部隊は侵略軍をやっつけるために、住宅の庭を通行できるでしょうか。
1、自衛隊は、敵の虚を突き、住宅の庭を横切って突撃する。
2、自衛隊は、住宅の持ち主の許可を得なければ、敷地を通行できない。住居不法侵入だ。早く、持ち主を探せ。
●問四 敵軍を迎え撃つにちょうどいい海岸が見つかりました。ここは必ずや敵が侵攻するであろう重要な地点です。自衛隊はどうすることができますか。
1、すぐに陣地を築いて、敵に備えることができる。
2、海岸は公共地なので、まずは、役所に行って使用の手続きをしよう。許可がおりたら陣地を作ってもいいですよ。
●問五
戦いが進展していきました。防衛本部からの命令を前線の部隊に伝達しなくてはなりません。そこで、「指揮所」を応急に建てる必要が出てきました。
1、見てくれなどは、どんな形のものでも良いから、とにかく急いで指揮所を築いて、命令を確実に伝達しなければならない。
2、緊急とはいえ、建築物は『建築基準法』に決められた建て方でないとだめですね。法律で罰せられます。
●問六 我が自衛隊の猛攻に敵侵略軍はひるみ、ついに退却を始めました。勇猛なる自衛隊は、これを追撃します。ところが、敵軍は退却の時、道路と橋を破壊していきました。
1、道路は、迂回するとしても、橋がこのままでは部隊が川を渡れない。緊急に橋を修理して敵軍を追撃しよう。
2、道路や橋が壊れていたら、『道路法』の基準を満たした許可を受けた者でないと修理できないことになっている。急いで資格を持っている建設業者を探しましょう。
●問七 逃げつつも侵略軍は必死の反撃。我が自衛隊員にも多数の負傷者が出てしまいました。これを見捨てて置かりょーか、しっかりせよと抱き起こし…。今すぐに手術をしないと命が危ないのですが…。
1、人命は何よりも大切ですよ。ただちに野戦病院を設置して、資格を持った医官が手術をします。
2、日本の『医療法』は正規の病院でなければ手術をしてはいけないことになっていますので、急いで病院を探しなさい。
●問八 遂に敵軍を撃退す!しかし、我が国からも大量の犠牲者が出てしまいました。戦場には敵・味方の戦死者があっちこっちに転がっています。時計ばかりがコチコチと、動いているも情けなや…。
1、いつ、敵軍が逆襲してくるかわかりませんが、戦死者の遺体をそのままにしておくわけにはいきません。敵も味方も手厚く埋葬しましょう。
2、埋葬や火葬する場合、市町村長の許可がいるので、まずは役所に申請に行きましょう。遺体も「墓地」以外に埋めるのは法律違反。早くお墓を探さなくては…。
●オマケの問 二〇〇一年の省庁再編の時、それまで「○○庁」だったものの多くが「○○省」に昇格しました(例えば、「環境庁」が「環境省」に)。この時、「省」にされずに「内閣府」の外局のままにされてしまったのは何庁ですか。
■答えあわせ
答えは全て「2」です。
■解説
●問1&2 【我が自衛隊は戦場に行くにも信号を守る】 今の規定では、自衛隊は『道路交通法』を守らなくてはなりません。侵略軍が目前に迫っていても、自衛隊の車両は信号を守らなければ、交通違反で罰せられることになります。しかも、その移動は一般車両と一緒です。
一般車両に優先できるのはパトカー、救急車、消防車などの緊急車両だけです。 このままでは有事の際、軍隊がパトカーなどに先導してもらうことになるでしょう。 また、停電で信号が消えてしまった場合の交通整理も自衛隊は勝手にできないことになっています。
●問3 【私有地は緊急時であっても立ち入れない】 『自衛隊法』には公共用地以外を通行するための規定がありません。侵略をうけた時、敵は何の制約もなく自由に行動できるのに、自衛隊は不法侵入罪にならないように私有地を避けて回り道をすることになりそうです。ちなみに消防署の隊員は、火事の時、どこでも通行が可能です(『消防法』)。
●問4&5 【スムーズに戦況に応じた陣地構築ができない】 敵の侵攻が予想されていても、今の規定では、海岸や河川、森林、自然公園などは、それぞれ『海岸法』『河川法』『森林法』『自然公園法』によって制限があり、面倒な手続きをして許可がおりないと陣地すら作れません。これでは、専守防衛どころではありません。 また、指揮所など応急的な建築物も『建築基準法』で制約を受け、さまざまな基準をクリアしなければいけません。ちなみに消防隊は場に応じてどこにでも指揮所を作ってもいいことになっています。
●問6 【道路や橋の補修ができない】 道路や橋が壊れていても、『道路法』によって自衛隊は自分では修理してはいけないことになっています。ということは、敵の侵略軍は橋を壊して退却すれば、安心して逃げられますね。
●問7 【負傷者の治療ができない】 『医療法』の制約によって、応急処置以外は、医療設備の基準をクリアした正規の病院でなければ手当をしてはいけません。もし、その場に医者がいて器具があっても手術をしたら違法なのです。
●問8 【火葬、埋葬ができない】 『墓地、埋葬等に関する法律』というのがあって、「火葬場」以外で火葬をしたり、「墓地」以外に埋葬すれば違法となり、罰せられます。しかも、これらの行為は市町村長の許可がいるので、許可が下りるまで、戦死者の遺体はそのまま放置しておくことになります。
●オマケの問 答えは( 防衛庁 )です。 自衛隊を統括している防衛庁は『省』ではなく、それより格下の『庁』です。国民の生命財産を守る国防を担当する部署が内閣府の一部に過ぎないのです。防衛庁の長も大臣ではなく、一段格下の長官です。この状態は、政府が国防についてどのような考えをもっているかがはっきり表れていると感じられます。
●その他
【住民の保護について】 現行の法律では、いざ戦争になった場合、住民を安全な場所に避難誘導するのがどの機関なのか、決められていません。
【捕虜収容所の設置について】 戦争になれば敵の捕虜が出ます。しかし、「捕虜収容所」設置に関する法律というものが日本にはありません。誰が、どのように捕虜を取り扱うのでしょうか。また、我が国は捕虜に関する『ジュネーブ条約』を結んでいます。 実は、『ジュネーブ条約』では平時からすべての国民にその内容を学校で教えることが義務づけられています。しかし、我が国の学校ではまったく教えていません(これは条約違反です)。だから、日本人は「捕虜の扱い方」も知らないし、自分が捕虜になる場合の「捕虜のなり方」もまるで知りません。戦時では、捕虜と認定されなければ、身柄・生命は保障されないのが国際常識です。知っていましたか?
■まとめ
ここまで見てきてわかったこと…。 我が国の軍である自衛隊には、警察や消防隊にすら認められている規定が設けられていないということでした。そもそも、「自衛隊」自体が憲法上に書かれていません。また、自衛隊の指揮権が誰にあり、誰が出動を命じ、誰が戦争の終結を宣言するのかも憲法に書かれていません。こんな軍隊って、他の国ではあるのでしょうか?(ありません)
今、国会で審議されている「有事法案」とは国家の緊急事態になったとき、我が国がどう対処するかを定めた法律案なのです。
これに関してはいろいろな考え方があって、「戦争ができる国にしようというのか」という反発を表明する人もいますし、また逆に、「こんなあいまいな規定では、実効性があやしく、国民の生命も守れない」と心配する声も上がっています。
国会議員の皆さんには、是非とも、我々国民の生命や財産、自由や権利、それを保障する国家の独立をしっかり守ってくれるような法律を作ってもらいたいものですね。国会審議を注目してみていきましょう。
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