第17回授業作りセミナー報告 “『天皇』をどう教えるか”/PartU
アメリカとイギリスに対する開戦の理由
昭和16年12月8日、『終戦の詔書』より


戦前・戦中期の天皇


安達 弘(自由主義史観研究会理事・横浜市公立小学校教諭)

「昭和天皇」の授業について

今年度の夏の全国大会で「敗戦」というテーマで模擬授業の機会をいただきました。このときに、「小学生にはどんな授業が可能だろうか?」といろいろ考えました。ご存じの通り、文部科学省は「小学校の歴史学習は人物中心でやるように」という方針を学習指導要領で明確に打ち出しています。そこで「敗戦」を教えるときに、どんな人物が適切だろうか?と思案しました。いろいろな人物を想定してみたのですが、どうも昭和天皇以外に授業になりそうな人物が見あたらないのです。

そこで、人物を昭和天皇に絞り、昭和天皇に関する本を集めました。読み終えた後の最初の感想は「本当の平和主義者というのは昭和天皇のような方のことではないか。」というものでした。文献を調べていろいろなエピソードを読み進めると、昭和天皇は見た目は優しそうな雰囲気ですが、すごく気骨のある人で、読めば読むほど「すごい人だな」と思いました。そして、知れば知るほど私自身が感動してしまったのです。

とくに感動したのはマッカーサーとの会見のエピソードです。また、それだけではなくご巡幸の話も感動的ですし、聞くところによれば軍が極秘裏に進めていた原爆の製造を「そんな非人道的なものを作るは朕が許さない」と製造を中止させたのも昭和天皇なのだそうです。とにかく、こうした諸々のエピソードを知れば知るほど「昭和天皇のことを教えるべきだ」と考えるようになりました。

こうして、夏の大会ではマッカーサーとの会見のエピソードをメイン教材にしてご巡幸までを授業化しました。じつは夏の大会以後、私の授業案に興味を持って下さる方がいて、感想を手紙にして下さったり、貴重な資料をわざわざ送って来て下さったりする方もありました。そんなこともあり、私は「昭和天皇」は歴史の人物教材として昭和を教えるときになくてはならない人物だ、とますます思うようになったのです。さて、今回は「昭和天皇と日米開戦」をテーマにして授業案を提案したいと思います。

じつは私は二十年小学校の教員をしています。六年生も六回担任して歴史を教えてきました。その中で、まだうまく教えられていない、と感じているのがこの「日米開戦」の部分です。子どもたちは素朴に「どうして戦争なんかしたんだろう?」という疑問をぶつけてきます。私には、この疑問にきちんと正対して答えられる授業がまだできていないという反省があります。そんなことを考えながら昭和天皇の文献を読んでいると「開戦の詔書」が目に付いたのです。この史料にはじつにコンパクトにしかもわかりやすく「なぜ、日本は戦争をしなくてはならなかったのか」ということが書かれていたからです。これをメイン教材にして授業を組み立てられないか?と考えました。なお、今日のこの授業はまだ案の段階です。実際に子どもたちには授業をしていません。この場で提案させていただいてご意見を頂戴し、実際の授業実践のときの参考にさせていただきたいと考えています。


本時までの展開について


私は、この「開戦の詔書」をメイン教材にして授業にしようと考えました。授業の構成そのものは複雑なものではありません。いたってシンプルです。こんな構成にしようと考えています。

@まず子どもたちにこう聞きたいと思います。「今は日本とアメリカは仲良しだけど昔は戦争をしていました。知っていましたか?」たぶん、知っているという子は三十人のクラスで五〜六人だと思います。知っている子がいればその場で「どんなことを知っていますか」と尋ねて、知っていることをすべて出させたいと思います。 例えば、真珠湾攻撃や原爆、空襲、あるいは戦艦大和などの知識が出てくるかもしれません。また、もっとよく勉強している子はむしろ逆に日本悪玉論の意見を出すかもしれません。しかし、いずれにしろそれほどくわしいものが出てくるとは思えません。

Aそこで、「では日本とアメリカとの戦争について調べてみよう」と投げかけて教科書や資料集・図書室の本あるいは家の人に聞いて調べさせる時間をとりたいと思います。こうして、調べることで戦争に関する知識が増えていくにつれて子どもたちはいろいろな疑問を持つようになると思います。

B子どもの中から、「先生、どうして日本は戦争しちゃったの?」「どうして戦争をしなくちゃならなかったの?」という疑問が出てくればしめたものです。ここから授業に入っていくことができます。仮にそういう疑問が子どもから出てこなければ私の方からこの課題を提示するつもりです。

本時の展開はこうしたい
本時の課題を切り出します。

なぜ、日本はアメリカと戦争しなければならなかったのだろう?

これを提示したら子どもたちはどんな反応を示すか、この場で考えてみたいと思います。では、もし小学生だったらこんな意見を出すのではないか?という風に考えてみて下さい。

(参加者からの意見)
「日本とアメリカの戦争なんだけど中国が関係しているのではないか」
「領土の問題があって対立したのではないか」
「現代でも貿易のことでもめることがあるので貿易のことが原因ではないか」
「ペリーのころから日本はアメリカにいじめられてきたからそんなことが積もりつもって戦争になったのではないか」

今のように、貿易のことなどが子どもから出てくればとても面白い展開になると思います。どれも子どもから出てくる可能性があると思いますが、おそらく、子どもは日常の人間関係になぞらえて意見を出してくるだろうと考えられます。なお、よく勉強しているからといってこの課題に適切に答えられるとは思えません。こうした意見を出させた後に話し合いをさせたいと思います。その後、一枚の資料を配付します。これは「開戦の詔書」を小学生のもわかるようにやさしく書き直したものです。(資料を配付する。)

「これを読むとどうして戦争をしなくてはならなくなってしまったのかわかりますから、あっここだな、と思ったら線を引いて下さい。」こう指示して教師の方で範読します。

(実際に範読する。)一番、子どもたちが気づくところはやはり石油が買えなくなってしまった、というところだと思います。その他、三カ所か四カ所ぐらい気づくのではないかと思います。 出てきた意見はさきほどの予想と比べさせたいと思います。
「さっきの○○くんの意見に似ているね。」といった意見が出てくれば子どもたちはよりこの授業のテーマに興味をもってくれるはずです。ここが授業のメインではあるのですが、付け足して聞いてみたいことがあります。

プリントを読んで他になにか気づいたことはありますか?

これを聞いたときに、「天皇は戦争したくなかったって書いてあるよ。」というところに着目できる子がいれば、「戦争をしたくなくても戦争になっちゃうことがあるんだなあ・・・」と純粋な感性で気づいてくれるかもしれません。そういうところまで理解してくれればうれしいと思います。 ここまで来たら、最後のまとめとしてもう一枚プリントを配ります。これをまた、範読もしくは子どもに音読させてまとめとして授業を終えたいと思います。

(もう一枚資料を配付して実際に範読する。)
この後は、さらにくわしく戦争のことを学習することになると思いますが、中学生でしたら、「アメリカの言い分はどうなんだろう」と調べてみるとセルフディベートになり、より理解が深まると思います。私の昭和天皇についての授業構想は以上です。


天皇についての理解と敬愛の念


じつは学習指導要領にははっきりと「天皇についての理解と敬愛の念を深めるように」と書かれています。ところが、こうしたことを意識している教師は現場にはほとんどいません。ですから、われわれはもっと「天皇」に関する授業づくりや教材化に取り組む必要があると思います。また、どうも「悪い奴がいるから戦争が起こる」という浅い認識がはびこっているようです。私は、日本人だったら、「なぜ、私たちのおじいちゃん・おばあちゃんは戦争をしたのか?」を知る必要があるという想いがあります。「私たちのご先祖は意味もなく戦争をしたわけではない。戦争にふみきったのにはやむにやまれぬちゃんとした理由があったんだ。」ということを知って欲しいと思うのです。そういう想いに昭和天皇という人物がマッチしてこの授業案を構想しました。じつは私たちが歴史の授業を構想しようとするとき天皇と結びつけられるところがそこかしこにあるのではないかと思うのです。

例えば、この後に授業で必ず扱うべきエピソードのひとつに「原爆」があります。ここでも昭和天皇を取り上げることができます。こうしてつながりを見つけ、普段の歴史の授業に中に天皇のエピソードを入れていくことで「天皇についての理解と敬愛の念」を子どもたちに育てていくことができるのではないかと思います。


模擬授業後の検討会から


授業後の検討会では貴重な意見をいただくもとができました。とくに配布予定の資料については正確性の面でいくつもの問題点があり、授業でこのまま使うわけにはいきません。時間経過や地名等に修正が必要です。もう一度、よく調べて直したいと思います。また私の授業案の根本的な問題点も指摘して頂きました。それは「開戦の詔書」をそのまま提示するのは昭和天皇の理解に誤解が生じる恐れがあるというものです。もっともなご意見だと思いました。「開戦の詔書」の内容を生かしながら別の展開を考える必要があると考えています。

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