授業報告
日本は降伏しなかったから、
原爆を投下された!?


服部 剛(横浜市公立中学校教諭)

《はじめに》

先の大戦終結間際、我が国に投下された大量無差別殺戮兵器・原爆について、中学校ではどのように教えられているのでしょうか。小生の勤務校が使用している帝国書院版歴史教科書には、こう記述されています。

ポツダムの会議では、アメリカ・イギリス・中国の名前で日本の無条件降伏をうながす共同宣言を出しました(ポツダム宣言)。しかし、この宣言を日本が黙殺したため、戦争の早期終結を望むアメリカは、8月6日に広島に、8月9日に長崎に原子爆弾を投下しました。

要するに、我が国の方に全面的な非があり、原爆投下を正当化する記述内容になっています。
教科書にすらこのような文脈で書かれているわけですから、マスコミや歴史本の類などにも、同様の記述が目に付きます。
原爆投下の理由について、多くの日本人が信じ込んでいるのは、次のような「通説」ではないでしょうか。

〔原爆投下理由の通説〕

日本がもっと早くポツダム宣言を受諾して、降伏していれば原爆を落とされることはなかった。
もし、鈴木貫太郎首相がポツダム宣言を「黙殺」せず、すぐに降伏を受け入れていれば、広島・長崎の20万人をこえる犠牲者は出なかった。これは、軍部・政府・天皇の責任ではないか。

しかし、これは本当でしょうか。
そもそもポツダム宣言が出されたのは1945年の7月26日ですが、トルーマン大統領が日本への原爆投下を命令したのは、その2日前の24日なのです。我が国の「黙殺」を受けて…、なんて話ではないようです。
加えて、原爆のような非人道的兵器の使用を正当化するような記述が、中学生の教科書にあって良いものでしょうか。
評論家・鳥居民(とりいたみ)氏の著書を元に、原爆投下の真実に迫る授業を実践してみました。


《授業の実践》

●以下をプリントに依りながら解説する。

〔原爆投下までのタイムテーブル〕

■1945年2/4 ヤルタ会談
米(ルーズベルト)英(チャーチル)ソ(スターリン)の首脳会談
※ヤルタの密約=ドイツ敗戦の2ヶ月〜3ヶ月以内にソ連は日本に宣戦する。 その見返りとして、ソ連に南樺太と千島列島を与える。

■4/12 ルーズベルト大統領、急死。
急遽、副大統領のトルーマンが大統領に就任する。

■4/25 トルーマン大統領、マンハッタン計画[原爆開発秘密計画]の責任者・スチムソン陸軍長官から、はじめて「原爆」の詳細を知らされる。
※トルーマンの感想「ザ・モースト・テリブル・シング!(最も恐るべき爆弾)」。 

発問1 この時、トルーマンは何を考えたでしょうか。次の(   )に入る言葉は何ですか。

〔トルーマンの考え〕
@「( 1 )は東ヨーロッパ・中国へ勢力を拡大するだろう。これはアメリカにとって脅威であり、早晩、米ソ関係は崩壊するであろう」

戦争終結後、アメリカは世界のリーダーになるべきだ。( 2 )こそ、ソ連を震え上がらせる武器となる!

A「原爆を開発するために20億ドルもの巨額の予算をつぎ込んでいる。実は、この秘密を( 3 )たちは全く知らされていない。もし議会で『税金の無駄遣いだ!』と追究されたら、どうしよう…」
  ↓
原爆を実戦で使用し、その威力を示すことで「勝利のために、原爆は( 4 )な兵器なのだ」と認識させなければならない! 

トルーマンの結論 〔〕
何がなんでも、( 5 )に原爆を投下しなければ!

●正解は(1 ソ連)(2 原爆)(3 議員または国民)(4 必要)(5 日本)。

●ではトルーマンは、どのようにして日本への原爆投下に持ち込んだのだろうか。
以降の流れを確認する。以下もプリントを使用した解説である。

■スチムソン陸軍長官の予定
・7/4に、ニューメキシコ州で原爆実験を行う(成功)。
・8/1前後に、原爆を日本に投下する準備が完了する。

■5/8 ドイツ降伏
 →ソ連、いよいよ対日参戦への準備を開始。

■トルーマンの予定表を確認しよう。

発問2 トルーマンが、日本に原爆を落とすべき最も良い日と考えたのは@〜Bのどこだと思いますか?

@7/4 原爆実験の予定日
       
A7/15 ポツダム会談の予定日
       
B8/8 ソ連が対日参戦する予定日
 
ここでは、生徒に予想させるにまかせ、「正解は後で」ということにしておいた。

〔トルーマンが知りたがったこと〕

●トルーマンが、とても知りたがっていた情報がありました。それは「ソ連は、いつ日本に宣戦布告するんだ?」ということでした。

発問3 トルーマンがソ連の対日参戦の予定日を知りたがったのは、なぜでしょう?
1.ソ連と同時に日本を攻めるため  2.ソ連の参戦を急がせるため  3.その他

●正解は「3.その他」である。

●「では、次の( )に言葉を入れて、『その他』が何なのか知りましょう。」

〔トルーマンのあせり〕
「( 6 )が中立条約を一方的に破って侵攻すれば、日本はすぐにでも降伏してしまうだろう。日本が降伏してしまったら、( 7 )のチャンスがなくなってしまう!」

●正解は(6 ソ連)(7 原爆投下)。
 以下もプリントで流れを追っていく。

■5/28 トルーマン、特使ハリー・ホプキンスをソ連に派遣し、スターリンから対日参戦の予定日を聞き出させることに成功。
ホプキンス「ポーランドの処置はソ連に任せましょう。親ソ政権を立ててもいいですよ。ところで、貴国の対日参戦はいつですか?」
スターリン「ソ連の対日参戦はドイツ降伏の3ヶ月後(8月8日)の予定だ」

■一方で、トルーマンは米英ソ3か国首脳によるポツダム会談を7月15日頃としていた。この頃、英国首相チャーチルは、会談の早期開催を何度も申し入れていた。→トルーマンは、すべて「拒否」。

発問4 なぜトルーマンは、ポツダム会談の早期開催を拒否したのでしょうか?
→( 8 )を待っていたから!

●正解は(8 原爆の完成)。

■5/31 「バーンズ・プラン」決定(国務長官バーンズ)

@できるだけ早く日本に対して原爆を使用する。
A目標は都市とする。
B事前警告をしない

■7/16 原爆実験成功(予定より12日遅れ)

■7/17 ポツダム会談(予定より2日遅れ)

トルーマン、スターリンから「対日参戦は8月15日前後」と聞き出す。
→これでソ連の参戦前に原爆が落とせるぞ!

トルーマン、妻への手紙
「これで日本はおしまいだ」

■7/24 トルーマン、原爆投下命令書を作成

■7/26 「ポツダム宣言」(日本への降伏条件提示)発表
《トルーマンのねらい、その核心に迫る》

●ここで「ポツダム宣言」に仕組まれたカラクリについて探求する。トルーマンの策略を白日の下にさらし、彼のねらいをはっきりさせる。

「ポツダム宣言」のカラクリ
「ポツダム宣言」は、最初の草案変を更して発表された。

変更部分は次の@Aである。

@共同署名国から「ソ連」を削除した。A第12項にあった「天皇の地位の保持」
を丸ごと削除した。

【発問5】@についてなぜ、ソ連の名前を隠したんだろう?

→すでに日本は戦争終結の準備を進めており、ソ連に終戦の仲介を依頼中であったことを補足する。

●「次の(   )には何が入りますか。」

「ポツダム宣言の署名国からソ連をはずしておけば、日本は今後ソ連がアメリカとの( 9 )に立ってくれるものと期待し続けるだろう」

●正解は(9 仲介)。

発問6 Aについてぜ、「天皇の地位保障」を削除したんだろう?  

ここで、次のエピソードを紹介する。知日派の元駐日大使ジョセフ・ グルーは「日本人が一番大切にしているのは天皇である。これまでのような『無条件降伏』要求では日本人は最後の一人まで戦うだろう。天皇の地位さえ保障すれば、日本は必ず降伏を受け入れる」と政府首脳に強く説いていた。 グルーの努力の結果、当初のポツダム宣言の草案には「天皇の地位の保持」 が書き入れられていたの
である。

●「次の(   )には何が入りますか。

「日本が最も心配しているのは、戦争終結後に天皇の身柄がどうなるのかという点にある。ということは、我々が『天皇の地位』を保障しなければ、日本はまだ( 10 )を受け入れないだろう」

●正解は(10 ポツダム宣言)。

●「ポツダム宣言にはもう一つカラクリが仕組まれていました。それは…、」

ポツダム宣言を「宣伝文書」のような形式で発表する

●「ポツダム宣言は日本に対する最後通牒でした。しかしトルーマンは、わざわざ公式の外交文書の場合とは違って『宣伝文書』のような形式で発表しました。」

発問7 なぜ、公式の形で発表しなかったんだろう?

●「次の(   )には何が入りますか。」

『最後通牒』ということを意識させないように偽装して、日本政府がポツダム宣言を( 11 )しやすいようにしておこう」

●正解は(11 黙殺)。

●「ズバリ、トルーマンのねらいは何でしょうか。次の( )には何が入りますか。」

〔トルーマンのねらい〕
「原爆を使うためには、まだ日本を( 12 )させてはならない!」

●正解は(12 降伏)。

●そして、以下を確認する。

■8/6 広島に原爆投下(ウラニウム型爆弾・リトルボーイ)
→トルーマン、新聞記者に語る「今までに一番嬉しいことだ。」

■8/8 ソ連対日参戦、満州に侵攻を開始する。
(原爆投下によって日本がただちに降伏することを恐れ、予定を早めて侵攻)

■8/9 長崎に原爆投下(プルトニウム型爆弾・ファットマン)
→トルーマン、満面の笑みで原爆投 下発表の記者会見。(別掲の写真)

■8/10 日本政府、「天皇の地位を保障する」という条件ならば、ポツダム宣言を受諾すると伝達。(アメリカからの返答待ち)

■8/12 アメリカから「バーンズ回答」が届く
〜アメリカは、天皇の地位保障を暗黙のうちに了承した。
→要するに、ポツダム宣言の草案から意図的に削除していた「天皇の地位の保持」を復活させただけである。

■8/14 日本政府、ポツダム宣言受諾。

<まとめ>
トルーマン大統領と国務長官バーンズは…、「原爆の威力を実証するために、日本を降伏させなかった。」 (2種類・2発の原爆を投下するまで)

●ここで、もう一度「通説」を確認する。

通説「日本がもっと早くポツダム宣言を受諾して、降伏していれば原爆を落とされることはなかった。広島・長崎の20万人をこえる犠牲者が出たのは、軍部・政府・天皇の責任である」

これまでの通説を真実だと思いますか?感想を書いてください。

〔おわりに〕

この写真は、トルーマンの記者会見の場面を写したものです。1945年8月9日に撮られました。長崎への原爆投下の成功を満面の笑顔で発表しているのです。

生徒諸君の怒りは、この写真を見たときにピークに達した模様です。小生は、生徒に言いました。
「見てごらん、この満面の笑顔を。そりゃ、そうでしょう。自分が練りに練った策略が大成功したわけですから。原爆は無事に使用できた。にっくき日本はぶっ倒した。これで当分、ソ連を黙らせられる。戦後世界はアメリカのものだ。トルーマン、生涯最高の笑顔でしょうね。」

●戦争や国際政治というものは厳しいものです。アメリカは自らの国益を追求しただけでしょう。しかし、我が国で広く言われている「原爆投下の通説」はアメリカの立場から主張されている一方的なものだと言えます。まして、我が国の指導者の方に全面的に非があるような言い方は、明らかに事実と違います。それ以上に、日本を不当におとしめるものといえましょう。

授業終了直後、小生のところにやってきた男子生徒の言葉です。
「トルーマンってのは、ものすごい男ですね。頭にきたけど、本当にすごい男だ!」
彼は、怒りをこらえつつ、それを超越して冷静に分析していました。


《参考文献》

・鳥居民『原爆を投下するまで日本を降伏させるな』(草思社)
・櫻井よしこ・鳥居民「なぜ原爆は投下されたのか」(『正論』平成17年9月号)他

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