平成17年度全国大会
レポート紹介


吉永 潤(神戸大学発達科学部助教授)

夏の大会2日目に発表されたレポートの概要を紹介する。(発表順、敬称略)

●藤岡秀匡「世界史を通じて日本史を学ぶ授業の提案」 
高校においては地歴科の必修科目は世界史のみであり、世界史の事項に対比させて日本史を学ばせる工夫が必要となる。例として「カール大帝と万葉集」(カール大帝は文盲であったというが、同時期の日本では身分を越えて和歌を詠み、万葉仮名で記録された。)「長安と平城京の城壁の違い」「ファン=デン=ボスの強制栽培制度と日本の台湾統治」「イギリスのミャンマー・コンバウン朝征服と韓国併合」「ヨーロッパと日本の封建制度」「清朝の洋務運動と日本の富国強兵・殖産興業」。

●近藤 聡「メディア・リテラシーの授業『新聞はみな同じではありません』」 
本年の中国関係の記事を比較させ、新聞報道の違いを知る授業。まず、反日デモにつき2紙の記事を比較させ(社名は伏せて)違いを探させる。(たとえば見出しで、デモ人数3万人/2万人、「二邦人殴られけが」/「学生殴られけが」などの相違。)以上の後、社名を告げる(読売/朝日)。続いて副首相の帰国報道につき同じ作業。また同日の社説を比較し報道と社説の連関を知る。最後に、米国務省の中国軍事費公表の2記事につき、どちらが読売でどちらが朝日か理由もつけて予想させる。

●高橋智之「『特攻隊』授業記録」 
特攻隊を教える小学校歴史授業。特攻隊員の遺書を紹介し、「今の日本は死んでいった特攻隊の人たちが考えていた理想の国になっていますか」と問う。隊員と同じ年齢の若者の「荒れる成人式」のビデオを見せ、感想を書かせる。「今の若い人は国なんかどうでもいいみたいに思っているし自分のことしか考えていないから自分は絶対そうならないようにしたい」(児童の感想)。

●斎藤武夫「浮世絵−学校で学びたい歴史36」 
浮世絵を通して江戸町人文化の成熟と、ヨーロッパ芸術への影響を教える小学校歴史授業。広重と北斎の浮世絵を見せ、当時の値段(安価であった)を確認し、浮世絵が世界初の庶民芸術であること、世界初のカラー印刷であることを紹介。また、ゴッホの「タンギー爺さん」を見せ、背景の浮世絵を確認、浮世絵がゴッホの作風を決定的に変えたことを紹介。浮世絵は、日本が世界に影響を与えた最初の芸術だった。「わたし達はみな、日本の絵を愛し影響を受けている。わたし達はフランスの日本人だ」(ゴッホ)。

●勝本淳弘「小学校社会科で捉える『テロと戦争』」 
9・11勃発直後に実施した授業。まず、テロとは政治的目的での人殺しと確認、その上で戦争とテロとの違いを考える。「パールハーバーと今回の攻撃とは同じか?」という問いから、この百年間に日本が戦った戦争へと視野を広げる。日露戦争では休戦日、捕虜の扱いなど戦争のルールが遵守されていたこと、第一次大戦の欧州戦線では殺傷力の高い兵器の出現により戦争被害が民間人に及んだこと、他方日本ではルールに基づいた捕虜の扱いがされていたこと(坂東収容所など)、第二次大戦では民間人大量殺戮が意識的に実行されたことを見る。しかし、戦争のルールが大きく破られた第二次大戦でも、国家という責任主体が存在した。

●竹内孝彦「敗戦と占領による国語軽視」 
戦後、小学校教育から漢字や古典が排斥されてきたが、近年ようやく復活の兆しが見られる。明治以降の漢字指導と仮名遣問題の歴史を概観する。たとえば、昭和21年の米国教育施設団は、「いずれ漢字は全廃され、音標文字システムが採用されるべき」「ローマ字が一般的に使用されること」と漢字・仮名の排除を勧告(実質命令)している。

●米山高仁「元寇」 
非教師会員による授業づくりの試み。歌謡を教材に用いた元寇の授業案。鎌倉武士は祖国防衛の意気に燃えて戦ったことを印象深く伝える。その他、「官公」「牛若丸」「青葉の笛」「那須与一」など歴史授業で使える歌謡を紹介。

●上原 卓「『極秘指令 金賢姫拘束の真相』を読む」 
大韓航空機爆破事件時、在バハレーン日本大使館員であった砂川昌順氏の、自身をモデルとしたノンフィクションを読む。主人公は、事件を北朝鮮テロリストによる犯行と推理し、日本名でバハレーンに入国した金賢姫らを出国直前に拘束することに成功。日韓関係を破滅の危機から救う。他方で、あらゆる理由を設けて何もしない他の日本外交官、および統合的情報戦略を持たない外務省には寒心の限りである。

●吉永 潤「『憲法前文』の破綻と教育の課題」他一篇 
なぜ国家意識の教育が避けられてきたかをテーマとした雑誌論文。国家の安全と生存を「諸国民の公正と信義」に委ねた憲法前文の理念の破綻を指摘する。その上で、櫻田淳の議論を元に、国家間の係争に関し、軍事力、経済力、言論力を効果的に用いて自国に有利な問題解決を導き出す戦略的思考の育成の必要を説く。

●大場敏夫「『男らしさ・女らしさ』は差別用語か?」 
日本では、男女の格差はなく、たとえば、北条政子など男っぽい女性がなんら批判の対象となっていない。また、平安時代の文筆家の多くは女性である。「男らしさ・女らしさ」とは「紳士・淑女」同様、男女の理想像の表現であり、その対立項は無知にして粗野な人間である。

●南木隆治「沖縄集団自決冤罪訴訟を支援する会」について 
沖縄集団自決強要の記述に関し、大江健三郎氏と岩波書店とを相手取り、梅沢元少佐と故・赤松元大尉の遺族が損害賠償を求めて起こした訴訟への支援のお願い。(「支援する会」郵便振替口座番号は00900−6−316826。支援カンパは振込用紙に同番号を右詰めにて。)

●後藤節正「中学校歴史・公民教科書は扶桑社を推薦します」
扶桑社と東京書籍の歴史・公民教科書を比較検討。東書版歴史は政治史記述において階級闘争史観、周辺民族抑圧史観に彩られ、外交史記述では外国視点から記述、また公民では基本的人権のうち平等権が自由権の前に置かれ、地球市民による人類益追求が説かれる。

●赤野達哉「『全米日系人博物館』ウェブサイトに潜んでいた反日的表現」 
「全米日系人博物館」(ロサンゼルス、リトル・トーキョー)のウェブサイト記事「日本人の海外移住略史1868年~1998年」における反日的表現の分析。たとえば「日本人人口の急激な増加は白人の人種的恐怖心を煽り〜」とあり、白人の人種差別意識や反日扇動には触れない。日本人自身が排斥運動の原因を作ったかのような記述となっている。

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