羅府スケッチ(3

赤野達哉(自由主義史観研究会理事・西大和学園CA校、同補習校)

アメリカは「会話社会」

小生は昭和三六年、大阪市に生まれ、その後は大阪府東部の衛星都市に育った。家の周りは水路と田んぼという、都会の辺縁部にある田舎町だった。それゆえに昭和四十〜五十年代の都市化はすさまじいものがあったが、その間、挨拶をしない隣人がふえていった。

アメリカは、未だに挨拶社会である。目があったら、見ず知らずの人にでも、"Hi!"とか"How are you doing?"と声をかける。そうでなくても、にっこり笑うのが普通だ。L A市内には古い建物が多く残っていることもあり、そういう場所で見知らぬ人と挨拶を交わすとき、昔に戻ったかのような錯覚に陥ることもある。

現在小生が住んでいる地域は、韓国人とヒスパニックが多く住んでいる。彼らと典型的なアメリカ人との文化的な違いは明白だが、挨拶に関しては、ヒスパニックは、基本的にはアメリカ人と同じ反応をする。しかし、韓国人とは目が合っても、睨みかえされることが多い。それは小生が日本人だからということではない。彼らがこの社会の習慣に溶け込んでいないことを示しているのだ。コリア・タウンの中では、ハングルの看板しか出していない店もあるし、噂によれば"Korean Only"と表示している店さえあるという。蛸が自分の足を 食うように、LAの韓国人は、基本的に韓国人を相手にだけビジネスをしている。まぁ、サウス・ベイの日本人も五十歩百歩ではあるが。

アメリカは挨拶社会というよりも、「会話社会」かもしれない。それは、短期間の旅行をしていても気づくと思う。例えば、スターバックスに入る。お金を払って、注文の品を受け取ったとき、店員は、"Thank you! "ではなく、"Have a good day! "などと声をかけてくることが多い。スーパー、ファストフード、銀行を含め、他の店でも、同様だ。もちろん、愛想よく言ってくれないこともある。機械的に聞こえることも屡々だが、とにかく短い会話をしかけてくるのが普通である。"Have a good day! "に対して、タイミングよく"You too!"と言うのが、最初は難しい。しかし、うまく決まると気持ちがよい。ぜひ、旅行中にさりげなくお試しいただきたい。


アメリカ人の本音と建前

日本に挨拶がすたれて、アメリカに残っているのは、少し不思議な感じがする。多くのアメリカ人も、日本人の方が礼儀正しいと思っている。しかし、ステレオタイプな日米文化比較には、結構誤りが多いのだ。

その最たるものが、本音と建前の使い分けということに関してである。 「日本人は、本音と建前を使い分けるが、アメリカ人はそうしない」。基本的にはそれで正しい。ところが、実はいろんな面で、アメリカ社会も本音と建前でできているのだ。

テレビを見ていると、禁煙に関するCMを目にすることが多い。ご承知の通り、アメリカの禁煙団体の活動は、殆どKKKか魔女狩りのようだ。小生もこちらに来て禁煙した。尤もそれは、火炙りが恐ろしいからではなく、一箱三ドル以上もするタバコを買う経済力がないからだが。

それはさておき、禁煙団体のみならず、タバコ会社が、「タバコには、間接喫煙には、こんなに害があるのですよ」、「子どもにタバコの害を説明するパンフレットがありますよ」、というようなCMを流しているのだ。疑われる方は、フィリップモリス社のウェブサイトをご覧になるとよい。どれだけタバコが体に悪いか、タバコ会社が教えてくれる。

ご承知の通り、タバコそのもののCMは、法律で禁じられている。タバコ会社がテレビを使って自分たちをPRしようとすれば、こういう手法を使わざるを得ないのだ。


マクドナルドの苦悩

ところで近年、タバコの次に槍玉に上がっているのが、ファストフード。とりわけ、ハンバーガーの最大手・マクドナルドである。

「マクドナルドのハンバーガーを食べ過ぎたので健康被害を受けた」、という愚かな訴えは、一旦敗訴とされたが、最近ニューヨーク州高裁から、ハンバーガーと肥満の因果関係の追及が不十分だと、地裁に差し戻されたらしい。仮に関係があったとしても、それが消費者の責任であることは明白で、高裁の意見はとんちんかんな印象を受ける。

毎日のようにハンバーガーを食べていれば、不健康になるのは目に見えている。食べなければよいだけの話だが、マクドナルドのハンバーガーは値段が安い。貧乏人はマクドナルドを食べざるを得ない。だから、マクドナルドが悪い。そういうおかしな論理が主張されている。

比較的低所得層が多いヒスパニックの子どもたちに、肥満気味の子どもが多く、胸の豊かな若い女性が多いのも、それは、マクドナルドのハンバーガーに使われている、安価な牛肉に含まれる成長ホルモンのせいだ、という批判まである。

マクドナルド側は、簡単に言えば「いやなら食べないという選択があるではないか」という真っ当な論理を展開しているが、本音を言えば、食ってもらわないと商売にはならない。そこで今、マクドナルドのイチ押しの商品は何かといえば、サラダなのである。マクドナルドにも健康なものはありますよ、あなたが選んでくださいよ、というわけだ。マック・べジー・バーガー(大豆を使ったパティを牛肉の代わりに使用)もある。しかし、それでも結局圧倒的多数の消費者は、マクドナルドの期待通り、ビッグマックとフレンチフライ、そして巨大サイズのコカコーラを買っていくのだ。


プロパガンダとストラテジー

アメリカの消費者団体は、食料品を売る会社が、子どもをターゲットにした、キャラクターを使ったCM や、商品がおいしそうに見えるCMは如何なものか、という批判を展開している。これを受けてか、ファストフード会社はどこもCMでは苦心しているように見える。

例えば昨秋、マクドナルドは恵まれない子どもたちを救うための基金のスポンサーとなり、CMで自社商品を一切出さずに、キャンペーンを行った。アメリカでは商品を出さない、商品名を連呼しない、スマートなCMは結構多いが、こと食品に関しては、やはりこういうイメージCMは珍しく、マクドナルドが、「子どもを不健康にしている」という批判をかわす戦略に苦心していることがよく分かる。他社も、子どもには関係のない朝食メニューのCMや、コメディ風のCMを放映し、ターゲットを「分別ある」大人に絞っている。


究極の本音と建前

ライバルのサンドイッチ大手・サブウェイは、「ハンバーガーは高カロリーだ」という一種のネガティブ・キャンペーンを展開している。マクドナルドのビッグマックに比べて、サブウェイのターキー・サンドイッチなら、量が多いのに、カロリーは低いですよ、という主張だ。

今から二十年前、初めてアメリカに来て衝撃的だったのが、他社を平気でこき下ろすテレビCMの存在だった。日本ではフライドチキンといえば、ケンタッキー・フライドチキン(KFC)の独壇場だが、こちらでは、KFCがトップではあるが、ライバル会社も多い。二十年前、小生を驚かせたCMはチャーチーズのもので、あきらかにKFCのものとわかる、紅白の箱を蹴飛ばすというシーンがあったのだ。

大統領選挙でもそうだが、ネガティブ・キャンペーンが必ずしも功を奏すとは限らず、逆に印象を悪くするケースも多い。そういった意味でも、一ひねりしたCMが増えており、シニカルな他社批判がチラッと顔をのぞかせるのを見るのは面白い。

ネガティブ・キャンペーンは、ホンネ思考のアメリカ人の、面目躍如といったところだろう。

ところで、タバコよりもハンバーガーよりも、多くの人を死に追いやっている銃の規制を訴えるCMは皆無である。日本の人権派が、中国軍やソ連軍に虐殺された日本人、無実の罪を着せられ、軍事裁判で死刑になった日本軍人、北朝鮮の拉致被害者らに冷淡なのと同様、禁煙論者も反マクドナルド運動家も、銃には沈黙している。これはアメリカン・デモクラシーのホンネである偽善的思考が、GHQの思惑通り、日本にしっかりと定着しているということか。


訂正とお詫び


過去三回の拙稿の中で、「公立日本人学校」という表現を何度か使用したが、これは適切ではないとのご指摘を、佐藤民男先生(台北日本人学校)にいただいた。そもそも公立日本人学校というものは存在せず、文部科学省から教職員が派遣されている日本人学校も、現地日本人会等が運営しており、全て実質的には私立だとのことである。それと西大和学園等、「私立」との関係が複雑であるが、このあたりの問題については、機会を見て論じたい。ご指摘に感謝すると共に、誤解を招く表現を用いたことを読者諸氏にお詫びする。

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