羅府スケッチ(2

赤野達哉(自由主義史観研究会理事・西大和学園CA校、同補習校)

二大政党制の教材

オリンピック・イヤーには、米国では、それを上回るビッグ・イベントがある。ご承知の通り、大統領選挙である。これは選挙というよりも、ほとんど祭である。選挙戦は既に、大統領候補を正式に指名する党大会の以前から盛り上がりを見せており、現職のジョージ・W・ブッシュ大統領の再選か、はたまた、二十一世紀のJFK、ジョン・F・ケリー上院議員か、世論調査では大差がないので、土壇場で前回のような、スリルを感じられるかもしれない。

日本国籍の小生は、所詮他人事なので、冷静に選挙戦の推移を見ている訳だが、二大政党制のあり方という点で見ると、日本人としても、色々と考えさせられるところがある。二大政党制というのは、政権交代可能な二つの政党が覇権を競う政治体制のことであるが、大切なのは、野党が政権担当能力と現実的な政策、及び現行の政策への対案を持っているかということである。

わが国の場合、現状のままでは永遠に二大政党制になれない。政権のお鉢が回ってきて、すぐに任せられる責任ある野党が存在しないからであることは言うまでもない。民主党? 外国人に選挙権を与えることを、党としての目標にしている政党など、責任政党とは言えない。それだけで本当に政権をとる気があるのか? と疑ってしまう。もし本気ならば、永久に自民党に政権に座っていてもらわないと、日本は主権国家ではなくなってしまう。尤も、その責任政党の自民党がしっかりしていないところが、本当の意味での日本の悲劇なのかもしれないが。

米国の場合、民主党は野党ではあっても、ブッシュ政権の全てを否定しているわけではない。逆もそうである。前大統領ビル・クリントンが、モニカ・ルインスキーなる女性と、ホワイトハウスでいかがわしい行為に及んだことが発覚した際、共和党議員の中にも、弾劾に反対した人がいたことで、クリントンのクビはつながったのだ。ここには、党議拘束という名の、全体主義は存在しない。

ケリー陣営は、ブッシュ政権のテロ対策そのものには、取り敢えず評価を与えている。だが、そのありかたに問題がある、という批判を展開しているのだ。「ダメなものはダメ」と、非現実的なことしか言えない日本の野党は、自民党から政権を奪おうと本気で思っているなら、こういう現実的な政策論争ができるよう、米国の民主党からしっかりと学ぶべきだろう。



共和党と民主党の違い


共和党と民主党の違いは、至極簡単に言うと、共和党はWASP、金持ちが主な支持層で、親日派、小さい政府を目指す。民主党はカトリック、黒人やヒスパニック、低所得層が主な支持層で、親中派、大きい政府を目指す。というような、ステレオタイプな色分けが一般的だが、そうは単純にいかない。国論を二分するような問題に関しては、共和党と民主党の境目はさらに曖昧になる。

米国は、信教の自由で生まれた国。宗教は選挙戦の大きな鍵である。ご存知のように、ブッシュはプロテスタント保守派。一方のケリーはといえば、カトリックである。この色分けは、政党と一緒なので分かりやすいのだが、各候補者がその色をどこまで出すかは微妙だ。  特に少数派のカトリック信者ということで、ケリーには、カトリック的な発言をどこまで強調してよいのかという問題がついて回る。

例えば、米国では、妊娠中絶は女性の権利として認められているが、カトリック教会は、避妊さえ罪だという公式見解を今でも持っている。 万一ケリーが、国民多数派の見解に迎合して、その教義から大きく外れることを言えば、身内はおろか、プロテスタントの支持者からも、「不信心者」としてこき下ろされかねない。そこが難しいのである。



タブーへのスタンス


宗教もそうだが、ユダヤ人、同性愛者、障害者、マイノリティなど、タブーへのスタンスをどう決めるかは、候補者としては頭の痛いところである。

ところで、小生がこちらに来てハマったテレビ番組に『サインフェルド(Seinfeld)』という人気コメディがある。主人公ジェリー・サインフェルドは、ニューヨークに住むユダヤ人コメディアン。ドラマの主人公は彼自身で、個性的な脇役との掛け合いが秀逸なのだ。脚本も手がけるジェリーは、前述のような、物議をかもしかねない話題を、ドラマ仕立てで痛烈に皮肉る。

例えば、自らがユダヤ人でありながら、厳然と存在するユダヤ人への偏見をさらりと取り上げる。黒人やホームレスへの差別も同様。ジェリーがゲイだと間違えられるという設定の中で、自分はそうではないと、猛烈に否定したあと、「いや、ゲイだということは、何でもないことなんだけどね」というような、白々しいアリバイを台詞に忍び込ませることによって、国民多数の差別感情をくすぐり、笑いを誘っている。

同性愛者の結婚問題はカリフォルニアでも大きな問題となっている。二〇〇四年二月に、サンフランシスコ市は、同性愛のカップルに「結婚免許」を発行した。これは、戸籍のない米国では重要な問題なのである。自治体が発行する結婚免許がなければ、結婚式を挙げられない。式ができないと、結婚証明書を取ることができない。正式に法的権利がある夫婦と認められる為には、結婚証明書の発行が不可欠であり、同市のこの措置は、同性結婚の可能性に大きく道を開いたことになる。勿論これは、全米で論議を呼んでいる。

共和党の副大統領候補、ディック・チェイニーの娘は、同性愛者であり、彼の同性愛擁護発言は、プロテスタント保守派をバックに持つブッシュ陣営の不協和音となっている。しかしそれが、吉と出るかもしれないのが、面白いところである。



増殖を続けるヒスパニック


ところで、南カリフォルニアに住んでいると、ここは本当に米国なのかと疑う程、ヒスパニック人口が多い。勿論、合法的に滞在している人もいるが、圧倒的に非合法が多いらしい。小生の住居の近くにも、ヒスパニックは多く住んでいるが、近所の公園付近で、数百ドルで偽の運転免許証(米国では、IDを兼ねている)やグリーンカード(永住許可証)が、マフィアを通じて簡単に手に入るという。この不法滞在のヒスパニックをどうするかというのも、大いに候補者を悩ませているハズだ。

カリフォルニア州のグレイ・デイビス前知事(民主党)は、不法滞在の外国人に運転免許証を交付する決定を下したが、彼が失職した後、後任のアーノルド・シュワルツェネッガー知事(共和党)はそれを中止した。ところが、ブッシュの地元テキサス州では、前回の選挙前に、合法的ヒスパニックの票目当てに、不法滞在のヒスパニックに、様々な優遇措置がばら撒かれたらしい。

カリフォルニアのメキシコ国境では、毎日数百人が不法入国しているという。付近の高速道路には、子どもの手を引く夫婦が描かれた交通標識(「密入国者多し。轢くな。」の意)まで掲げられている。若い妊婦が命がけで越境することも多い。米国の領土内で子どもを産み落とせば、その子どもは最初から米国籍を得られる。そうなれば、自分は不法滞在でも、「米国市民の保護者」、ということで、滞在が認められ、社会保障の恩恵を受けられることも稀ではない。まさに、体を張った大博打である。

不法移民は米国に潜り込んだ後、低賃金労働者を歓迎する農場主や、同じヒスパニックの雇用者に雇われ、生活基盤を築いてゆく。子どもたちは英語で教育を受けるが、親が家で英語を話さない為に、英語力が伸びない。LA教育委員会は、莫大な資金を投じて、バイリンガル・プログラムを採用したが、関係者はその失敗を認めている。合法的にビザを取って(経験的に言うが、費用もそれなりにかかる)滞在している者や、結局税金で彼らを養っている市民の間には、不満が鬱積している。

一方で、米国は移民の国だから、彼らを受け入れ、手厚く保護すべきだとの声も、民主党左派とその支持者を中心に根強くある。不法滞在のヒスパニックに対する政策を明白に打ち出すのは、双方の候補者にとって、諸刃の剣なのだ。


★  ★  ★

今年は二十数年ぶりのハリケーンの当たり年。ブッシュはすかさず、大きな被害を被ったフロリダ州(実弟ジェブ・ブッシュが知事でもある)に、「現職の強み」で大金をばら撒いた。一方、ケリー陣営は、イラク戦争遂行に関しての、ブッシュの失態をPRするのに躍起である。十一月初旬には、向う四年間、米国の、いや、世界の舵を取る新大統領が決まる。幾つかの州で使われている、骨董品のような投票用紙集計用の機械が、壊れなければの話だが

この記事の続きを読む   歴史論争最前線の目次