自由主義史観研究会の3つのテーマ
全国大会、沖縄集団自決、教科書採択


藤岡信勝(自由主義史観研究会代表・拓殖大学教授)

入江隆則先生を迎えた全国大会にご参加下さい

敗戦六十年の今年、自由主義史観研究会は、七月三十日と三十一日の両日、「敗戦と占領をどうとらえ、どう教えるか」をテーマとして全国大会を開催します。

講師には、明治大学教授(比較文学・比較文化専攻)の入江隆則先生をお迎えします。会員の皆様の中には、あるいは入江先生についてあまりご存知でない方もいらっしゃるかも知れないと思いますので、少し紹介させて頂きます。

私が初めて読んだ入江先生のご著書は、「中公叢書」の一冊として中央公論社から出版されている『敗者の戦後』という本でした。私の手元にある本には、一九八九年十二月に初版、翌年一九九○年四月に六版となっていますから、当時かなり評判になり、広く読まれたものであるはずです。そして、私は湾岸戦争後の思想的模索の過程でこの本を手にしていたことになります。

『敗者の戦後』には、「ナポレオン・ヒトラー・昭和天皇」という副題がついており、内容は次の三部構成となっています。

第T部 ナポレオン戦争とその敗者フランスの戦後
第U部 第一次世界大戦とその敗者ドイツの戦後
第V部 太平洋戦争とその敗者日本の戦後

ご覧のとおり、世界史的視野から三つの敗戦のケースを比較しつつ、日本の戦後の社会と思想のありかたを検討したものです。私はこの本によって、それまで知らなかったたくさんの歴史上の事実を知るとともに、事実相互の間の意外な連関を教えられました。著者の語り口は、職業的左翼史家の官僚的文体ではなく、歴史上の行為者(個人や社会集団)の心理的背景にまで踏み込んだ独自の風格をもったものです。私は、「歴史とは思想(思考)の歴史である」という歴史哲学者・コリングウッドの言葉を思い出しました。「歴史のイフ」も縦横に駆使されております。二つだけ、例を挙げます。

《これは仮定の問題であるが、もし一九○四年から一九○五年に到る日露戦争に日本が敗北していれば、ヨーロッパ諸国による中国大陸と朝鮮半島の植民地化は必至で、その場合日本の一部もしくは全部の植民地化も避けられなかっただろう。》

《もし仮に日本軍がマダガスカル経由で南アに侵攻してビルマやインドシナやインドネシアで実施したのと同じ政策をとっていれば、戦後現地人の独立が成功していた可能性があり、いまだにくすぶり続けているアパルトヘイトの問題はその時点で解決していたかもしれない。私がこのエピソードにふれるのは第二次世界大戦の日本の行動が、日本人のあまり意識しないきわめて遠隔の地においてさえ、小さくない影響を与えていた例として記憶しておくに値するからである。》

こうした発想は、しかし、単なるアイディアではなく、膨大な事実の渉猟と蓄積に支えられています。巻末の実に十四ページに及ぶ文献リストがそれを証明しています。本書の魅力はここにあります。残念ながら現在絶版で、図書館で読むしかありませんが、私は近現代史をダイナミックにとらえるための最良の手引き書の一つであり名著の一つであると考えております。

入江先生は、一九三五年横浜に生まれ、京都大学英米文学科を卒業後、東京都立大学大学院を修了。シェークスピア、ロレンスや新井白石などに関する専門分野のご著書のほか、次の著書があります。

『グローバル・ヘレニズムの時代ー世界は「江戸化」する』1990年、日本教文社
『日本がつくる新文明』1992年、講談社
『日本国家「最後の勝ち方」』1995年、東洋経済新報社
『太平洋文明の興亡ーアジアと西洋・盛衰の五百年』1997年、PHP研究所
『文明論の現在』2003年、玉川大学出版部
『海洋アジアと日本の将来ー続・文明論の現在』2004年、玉川大学出版部

全国大会では、入江先生のご講演に先立ち、日本の敗戦に関する三つの授業を教師会員が参加者を対象に行います。入江先生にはこの授業もご覧いただいた上でお話をしていただく予定になっております。
この機会をお見逃しなきよう、全国大会にぜひご参集下さい。


沖縄戦集団自決事件の真相究明を引き続き行います


本号は、沖縄戦集団自決事件に関する調査の特集としました。
五月二十日から三日間、自由主義史観研究会の会員九人で、現地調査を行いました。六月四日に開いた緊急集会は、豪雨のなか、たくさんの方々が駆けつけて来て下さいました。

特に、渡嘉敷島の赤松大尉に関する「軍命令」不在の証言は大きな反響を呼び、産経新聞が報道しました。私も、桜チャンネルの「報道ワイド」という番組に出演しました。私が担当している拓殖大学の授業でも紹介しましたが、学生諸君にも反響がありました。
現在、裏付け調査を継続中で、調査の完了が全国大会に間に合えば、パンフレットを発行します。

沖縄の新聞は、なんだかんだと私たちの調査にケチをつけようとしていますが、軍命令がなかったこと自体は、彼らも認めざるをえなくなりつつあります。これは、画期的なことです。「神話」を崩壊させる「蟻の一穴」です。


展望が開けつつある教科書採択


四月から各地の教育委員会で行われている教科書採択は、いよいよ山場にさしかかりました。早いところでは、七月上旬から採択結果が判明します。ただし、この日程は奇妙なことで、そんなに早く決定するということは、教育委員がろくに教科書を読む時間がないままに採択している可能性が高いわけです。早く結論を出した採択地区には、その点をたださなければなりません。

さて、採択戦の全体状況は、四年前とは比較にならないほど変化しています。会員の皆様は、教科書採択のことが新聞にあまり出ないことを心配しておられるかも知れませんが、新聞に出ないほうが、状況としてはよいのです。反対派が攻撃する材料がないことの現れだからです。といって、こちらに追い風が吹いているわけではありませんが、反対派が狙う逆風がほとんど効果を上げていないことによる「無風状態」なのです。

こうした事態をもたらした要因として、次のようなことがあげられます。

1.『改訂版・新しい歴史教科書』がどうにもケチをつけることができないように仕上がっていること
2.文部大臣も、外務大臣も、中韓の批判に対し、それが何の根拠もない批判であると一貫して反論していること
3.韓国の竹島騒動や中国の反日デモの乱暴狼藉に日本国民が強い反感を持ち、中韓の言い分が根拠薄弱な言いがかりであることが多くの国民に分かりつつあること
4.三・四月は竹島問題、五・六月は靖国神社参拝問題が正面に出たため、歴史教科書問題はその影にかくれがちであること
5.反対派の思想動員が前回ほど利いていないこと

こうしたなかで、文科省は、採択期間中の歴史教科書の市販とホームページへの全文掲載を認める方針を出さざるを得なくなりました。これは、教科書採択制度の歴史で画期的ともいえる前進です。教科書採択は、国民の目の前で、開かれた形で行われるべきです。 八月末までの採択期間中に、反対派と朝日新聞は何事かを仕掛けてくるはずですが、それが前回のように成功する保証はありません。しかし、気を引き締めて戦いたいと思います。

私は、六月中旬に、PHP研究所からPHP新書の一冊として、『教科書採択の真相ーかくして歴史は歪められる』という本を出しました。ゴールデンウイークに書き上げたもので、一九五五年の「うれうべき教科書の問題」というパンフレット以来の、教科書をめぐる日教組と保守政党の戦いをあとづけ、前回の採択の具体的な経過を通して、結局、教師に教科書を選ばせている限り、歴史教科書の改善はあり得ないことを論じたものです。お目通しいただければ幸いです

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