国際法違反

原爆を語るキーワード


広島と長崎への原爆投下は国際法違反であったとよく言われます。しかし、アメリカ側には、‘原爆投下当時は原子兵器の禁止を明示した条約も国際慣習法もなかったから、国際法違反ではないとする主張があります。原爆投下が国際法に反するか否かに関する議論は、古くは極東国際軍事裁判(東京裁判)まで遡ることができます。当時の日本側弁護団は、「原子爆弾という国際法で禁止されている残虐な武器を使用して多数の一般市民を殺した連合国側が、捕虜虐待について日本の責任を問う資格があるのか」と主張しました

また、最初の原爆投下から数日後(1945年8月10日)、日本はスイスを通してアメリカに原爆兵器の使用を即中止するべきと、抗議文書を送っています。そこでは原爆使用が国際法の原則や人道の根本原則に反するだけでなく、残虐な新型爆弾の使用は人類文化に対する新たな罪状だと糾弾されています。大東亜戦争当時、成文化されていた戦争に関する国際法は二つありました。陸戦の法規慣例に関する条約(ハーグ陸戦条約)と、ジュネーブ傷病者条約(ジュネーブ条約)です。それらの法では非戦闘員の殺傷、非軍事目標、無防備都市への攻撃、不必要に残虐な兵器の使用、捕虜の虐待等が厳禁されていました。‘原子兵器の禁止を明示した条約も国際慣習’が無かったとしても、広島と長崎への原爆投下が国際法の厳禁行為に該当することは明白です。

1955年4月5日、原爆投下は交際法に違反する戦争犯罪であるとして、5名の被爆者五名を原告とする賠償訴訟が起こされました。これに対して東京地方裁判所は1963年12月7日、原爆投下を国際法違反と断定する判決を下しました。新兵器を直接的に禁止する明文がなくとも、既存の国際法規の基礎となっている諸原則に照らした場合、当然禁止されていると考えられる場合も含まれると判示されたのです。ここにおいて、少なくとも日本の‘法律’は原爆投下を‘有罪’と認めた事実が成立しました。

しかしながら、日本政府はこの裁判の中で、「広島市及び長崎市に原子爆弾の投下されたことを直接の契機として、日本国はそれ以上の抵抗をやめ、ポツダム宣言を受諾することになり、かくして連合国の意図する日本の無条件降伏の目的が達成され第二次世界大戦は終結をみるに至ったのである。このように原子爆弾の使用は日本の降伏を早め、戦争を継続することによって生ずる交戦国双方の人命殺傷を防止する結果をもたらした。かような事情を客観的にみれば、広島市・長崎市に対する原子爆弾の投下が国際法上違反であるかどうかは、何人も結論を下し難い」との陳述をしています。戦後10年…原爆投下に対して抗議文書を送っていた政府は、何故にスタンスを転換させてしまったのか。私達はこの現実を直視して、その是非について考える必要があるでしょう。

1949年には武力紛争が生じた場合に、傷者、病者、難船者及び捕虜、これらの者の救済にあたる衛生要員及び宗教要員並びに文民を保護することによって、武力紛争による被害をできる限り軽減することを目的とした、以下の4条約がジュネーヴ諸条約に設置されました。

条 約
条文数
保護対象
適用期間
第1条約
64
軍隊構成員の傷病者、衛生要員、宗教要員、衛生施設、衛生用輸送手段等 条約の保護対象者が敵の権力内に陥ってから、送還が完全に完了するまで
第2条約
63
軍隊構成員の傷病者、難船者、衛生要員、宗教要員、病院船等 海上で戦闘が行われている間(上陸した後は第1条約が適用される)
第3条約
143
捕虜 敵の権力内に陥ってから、最終的に解放され、送還されるまで
第4条約
159
紛争当事国又は占領国の権力下にある外国人等 紛争又は占領の開始時から、原則として軍事行動の全般的終了時まで

日本は、1953年4月21日に加入しました。武力紛争の形態が多様化・複雑化したことを踏まえ、文民の保護、戦闘の手段及び方法の規制等の点で、ジュネーヴ諸条約を始めとする従来の武力紛争に適用される国際人道法を発展・拡充した、1977年採択のジュネーヴ諸条約追加議定書にも、日本は2004年8月31日に加入しています。これには国際的な武力紛争に適用される第1追加議定書と、非国際的な武力紛争に適用される第2追加議定書があります。第一追加議定書の第36条「新たな兵器」の項目には、「締約国は、新たな兵器又は戦闘の手段若しくは方法の研究、開発、取得又は採用に当たり、その使用がこの議定書又は当該締約国に適用される他の国際法の諸規則により一定の場合又はすべての場合に禁止されているか否かを決定する義務を負う」と記されています。

2007年1月末までの締約国数は、ジュネーヴ4条約締約が194カ国、第1追加議定書締約が167カ国、第2追加議定書締約が163カ国。尚、アメリカは1955年 8月2日に4条約に批准してますが、追加議定書に関しては批准、加入、継承の何れもしていません。

★原爆裁判については、『原爆裁判-核兵器廃絶と被爆者援護の法理』(松井康浩著、新日本出版社刊 1986年)に詳しく記されています。少々、入手が難しくなっていますが、御一読ください。

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