特集
終戦時の在外資産


杉本幹夫(自由主義史観研究会理事)

日本はサンフランシスコ平和条約で賠償を放棄している。その為中国等に全く賠償していないと思っている人が多い。所が実際は日本が持っていた在外資産は、個人所有分を含め一切没収され、その資産のあった国に引き渡されている。準賠償と言われているが、立派な賠償であり、それも中途半端な額ではないのである。ホームページへの質問に関連して一寸調べたので報告する。

この問題に関して最も基本的な資料は、大蔵省財政史室編『昭和財政史ー終戦から講和までー』と思われる。この本には日銀、GHQ、在外財産調査会(以下調査会と略する)、外務省の四つ調査結果が報告されている。その内、外務省によるものは南方地域に限定されたものであるので、全体について報告されてものは3件である。それぞれの値は日銀1110億ドル、GHQ308億ドル、調査会237億ドルである。

まず日銀の調査は1945年11月公布された在外財産調査規則により、年末くらいまでに提出された資料を集計されたものであるが、資料が余りにも膨大すぎ、地域別統計が揃っていない。尚中間報告には金種別、機関別、場所別等資料が公開されているが、場所別では、中国本土に比べ満州の資産が少なすぎる等、あくまで中間報告と考えるべきで、資料として扱いにくい。又1ドル10円で換算しているが、これでは余りにも多額になりすぎると考えたのか、大蔵省は1ドル15円で換算すべきだとして、1945年価格で598億ドル、為替レートがはっきりする1939年価格で436億ドルの数値をあげている。

それに対し日本国内の総生産は1939年330億円(1ドル4円として82億ドル)、1944年745億円(1ドル5円として150億ドル)(経済企画庁)しかないことから、余りにも大きすぎるのではないかという意見もある。この件を検討するには外地の生産は日本の総生産には含まれていないので、それぞれの場所の総生産をチェックする必要がある。しかしそれにしても確かに多すぎる感がある。この鍵は土地の評価ではなかろうか。この1110億ドルの40%以上が不動産価格である。

その他鉱業権等もある。この評価が取得価格か時価であるか書いてないので分からないが、時価とすると、鉄道の建設により、ただ同然の地価が、大幅に値上がりするので、不自然な数字と断定する事は出来ない。しかし申告に基づく数値なので、高めに申告される可能性は否定できない。

次に調査会の資料は軍、個人を集計から外しており、民間企業も調査対象は6700社に過ぎない。従って軍、個人の資産を加えると、GHQの調査の308億ドルを上回るが、ほぼ一致する。尚ドルとの換算比率は15円/ドルであり、日本円では4500億円以上となる。

GNPの調査は軍事資産と非軍事資産に分けられており、地域別、特に北朝鮮と南朝鮮が分けられており、扱いやすい。又日本の調査ではなく、GHQの調査と言うことで説得性がある。尚為替レートは非軍事用については明示がない。海軍は10円/ドル、陸軍の武器は4円/ドル、糧食は7円/ドルと品目によりレートが変わり、4−8円/ドルである。全体の平均レートは4.8円である。非軍事資産もこのレートとすると1500億円となる。

後二者の数値はドル表示では300億ドル強ということで一致しているが、円表示では3倍ほど違っている。調査会資料は円で積算したデータを15円/ドルで換算したものである。一方GHQの資料の元データをどのように集めたかはっきりしない。

日本の急激なインフレが始まったのは戦後の10ー11月くらいからであり、終戦時はまだインフレはそれ程でなかった。従って300億ドル、1500億円と評価した方が現在価値に換算した場合、整合性があると考える。

アメリカの消費者物価指数は1945年から今日まで約10倍弱になっている。従ってこの比率で現在価値に換算すると、3000億ドル、30兆円となる。一方日本の消費者物価は500倍になっているので、75兆円、7500億ドルとなる。又国家予算の規模は1000倍以上になっている。

現在価値で幾らになるかと言うことは、基礎データがこのように曖昧であり、又品物により、価値感が大幅に変わってきているので算定不能である。例えば昭和三〇年頃3万円で買ったカメラは、今同程度の性能の物を買うとすれば、1万円にも満たないであろう。しかし当時の価値観からすれば、今日の30万円以上であろう。又日清戦争の賠償金、遼東半島還付金を含めた2億3千万両の評価を考える場合、消費者物価指数で換算するより、当時の国家予算との比率で考えた方が、ぴんとくるのではなかろうか。

消費者物価指数なのか、卸売物価指数なのか、又日本のお金で作ったのだから日本の物価指数がよいのか、国際的にアッピールするためにアメリカの物価指数が良いのか、それだけの資産を作るのに国家予算の何年分使ったかと言う見方もある。何をデフレーターにするべきかは、個人によって判断が異なると考える。

いずれにしろ日本が賠償として置いてきた資産は総額300億ドル強、日本円で1500億ー4500億円前後と考えて良いと考える。下記にGHQ調査と調査会調査による地域別資産を示す。その内半分以上は中国で、中国へは大変巨大な賠償を払っていることになるのである。

 
非軍事
資産
軍事
資産
GHQ
調査合計
調査会
調査
南洋・沖縄

117

371

488

51

北朝鮮

2,971

257

3,228

 
南朝鮮

2,275

601

2,876

 
朝鮮計

5,246

858

6,104

4,719

台湾

1,898

589

2,487

2,319

樺太北方領土

534

192

676

623

満州

8,630

2,662

11,292

8,747

中国本土

4,726

2,058

6,782

5,879

香港
 

5

5

 
フィリピン

126

345

471

 
仏印

30

121

151

 
タイ

25

145

170

 
マレー

112

221

333

 
ビルマ

44

280

324

 
蘭印

128

825

953

 
南方合計
     

1,145

その他

85

 

85

 
アメリカ

92

8

100

 
その他連合国

71

299

370

 
枢軸国

14

 

14

 
欧米他
     

198

合計

21,880

8979

30,859

23,681


又枢軸国、中立国に持っていた資産は国際赤十字の手により売却され、連合軍の捕虜に個人補償された。この金は約1600万ドルで、捕虜1人当たり約80ドルである。GHQの調査で枢軸国に保有していた資産は約1400万ドルで殆どドイツである。又その他の国として8500万ドル計上されている。アメリカ9200万ドル、イギリス本国1900万ドルとの比較で、随分大きな金である。南米当たりが主であろうか。これらの国では残留邦人の資産は賠償の対象から外されている。従ってこの賠償額からGHQ調査数字の適正を検証することは出来ない。

サンフランシスコ平和条約での賠償放棄が大きく宣伝されているため、日本は殆ど賠償していないように思われているが、実際は在外資産の没収により、このように多額の賠償をしているのである。我々は世界にもっとこの事をPRすべきだと考える

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